「ありがとうごにょごにょ…」

電車の座席に親子が座ってた。
母親とその子ども。
子どもは男の子で3歳くらい。とにかくよくしゃべってた。


たいして混んでいない昼間の電車。
各駅停車で人が降りてはまた乗ってくるそんな感じ。


ある駅でおじいさんが乗ってきた。
白髪頭のおじいさん。
手にはスーパーの袋。


母親と子どもが座っているそのすぐ横に座るおじいさん。


向かいの座席の若い男の人がガムを噛みはじめた。
それをじーっと見ている男の子。
ものすごくものすごーく食べたさそうだ。


「ママー、あの人、なに食べようとー?」
大きな声で言う男の子。
「ママー、なんか食べたいー」
母親は困り顔。


隣に座っていたおじいさんがアメを差し出した。
受け取っていいものか男の子は母親を見る。
「すみません。ありがとうございます」と母親。


それから男の子はアメを受け取り、にっこり。
「ありがとうって言いなさい」と母親。
でも恥ずかしいのか言えない男の子。
急に無口になる。


おじいさんはにこにこ。
何も言わない。
ただにこにこと座ってた。


しばらくして
「食べていーい?」
男の子はアメを手に言った。
「ありがとうって言ってから」と母親。


小さな声で「ありがとうごにょごにょ…」


おじいさんは変わらずにこにこ。


アメをなめ始める男の子。
にこにこ。


そんな電車での一場面を見た。
見れてよかった。
「ありがとうって言ってから」と言った母親の人もいいなと思った。