えいち×こもこコラボ『怪談クラブへようこそ。』

えいちさんの絵にインスパイアされて、ショートストーリー書いてみました。
夏なので、ちょっとこわめのお話を。
えいち×こもこコラボ第1弾(!?)ってことでどぞよろしくです。

『怪談クラブへようこそ。』(イラスト:echさん


怪談クラブというのがうちの高校にはあって、担任教師が顧問をしている。
怪談クラブというのは、文字通り怪談をするためのクラブだそうで、夏の間だけ活動しているらしい。まぁ、水泳部みたいなものだろう。


部員もそこそこいるらしく、部室は文芸部とアニメ研究同好会の間にあるらしい。かけもち可のクラブで、ミステリー好きの文芸部員も所属しているらしい。
おそらく創作ミステリーや自作の怪談を発表するのが怪談クラブの活動なのだろう。
僕は別にこわい話が好きだというわけではないが、京極夏彦の作品をよく読むということを知った担任が僕に声をかけた。
一度怪談クラブの見学に来ないか、と。


「たまにはちがう生徒に話を聞いてもらいたいというのがあるんだ。部員同士だとどうしてもマンネリになって、お互いの話のパターンが読めてつまらないらしい」
と、担任は言った。
「今度、怪談発表会をするんだ。その事前練習も今やっているところだから、ぜひ聞きにきてくれ」
事前練習には興味がなかったが、怪談発表会なら聞きに行ってもいいかな、と僕はそのとき思った。


夜十時開場、十時半開始の怪談発表会。
場所は学校裏手にある古い寮だった。今は使われていない寮だ。
近々取り壊わされるんじゃなかったかな。
体育館横の細い坂道をのぼった僕は立ちつくした。
樹木に呪われるようにとりかこまれたその寮はまさに廃墟だった。黒い二階建ての建物は廃墟と言っても間違いではないと思った。


 怪談クラブ発表会


A4サイズのコピー用紙が寮の入り口に貼られていた。
縦書きで墨でわざとおどろおどろしく書いてあった。

 
玄関には靴。
一体何人集まっているんだろうというくらい、スニーカー、サンダル、ビーサンといった靴がひしめきあっていた。
くすんだ蛍光灯がやる気なさそうに辺りを照らしている。
はっきり言って暗い。
暗く不気味なわけだが、まぁ取り壊し寸前の寮だから仕方ないのかもしれない。
怪談の発表会を光あふれる会場で行うというのも変だ。


「ようこそ」
女子だ。長い黒髪の。制服を着ている。が、夏服じゃないのはなんでだろう。
その女子はかわいいはかわいいのだけれど、無表情で生気がなかった。
怪談クラブの部員で、顧問から僕が来ることを聞いて案内にきてくれたんだろうか。
さっきまで人の気配がなく、玄関の靴の量にビビっていた僕だったが、女子が出てきてくれて少し安心した。


「こちらです」
女子は僕をちらっと見て、それから踵を返した。
僕はスニーカーを脱いだ。何十足と脱ぎ散らかされた靴を時々踏みつつ、中へ。
床は濡れたように冷たかった。
薄暗い廊下が続いていた。


足音もなく、女子は歩いていく。
僕も続く。
僕は首まわりにかなり汗をかいていることに気づく。脇もぐっしょりだ。


ふいに生あたたかい風が僕の頬をなでた。
どこか窓が開いているのだろう。
木の葉がざわめきが聞こえる。


「寮の食堂が会場なんです」
女子は少し振り返って言った。
なるほど、寮の食堂ならそれなりに椅子もあるだろう。
僕以外に怪談を聞きにきている生徒があの靴の数だけいるわけだ。


木々のざわめきがやんだ。


しん。


黒髪の女子はすっと食堂に入っていった。
もう発表会は始まっているのだろうか。
中は暗そうだ。
たぶんロウソクの灯りくらいしかないんだろうな。


僕も食堂へ足を踏み入れた。


暗くて一瞬何がなんだかわからなくなった。
闇だ。
暗闇と無音。
人がいる気配はまったくなかった。


やがて暗さに目が慣れてくると目の前に何があるのか悟った。


堅い輪郭。
墓石だ。


そこは、墓地だった。
学校裏、山手にある墓地だった。


木々が僕を嘲笑いはじめた。
風が汗ばんだ肌を急速に冷やしていく。
僕は黒い木々が取り囲む墓地の入り口に立っていた。


そうだ。
もう寮は取り壊されてしまっているんだった。


さっきの女子が墓石の影から僕を見ていた。
僕は金縛りにあって動けなくなっていた。



end