- 作者: 漆原友紀
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人に歴史有りというのは誰にでも言えることで、生きていればそれなりに歴史ができてくる。その歴史とどういう風に向き合うか生きていくうえでどうつきあっていくか、そういうことも考えたりする作品だった。
「水域」の感想から少し離れるけれど、今思っていることを少し書いてみたいと思う。
わたしは女性脳なのか脳が上書きモードで次々とデータを上書きしてしまい、上書き前のデータは忘れてしまっている。忘れてしまっているというより、記憶フォルダにしまいこんでしまっていると言ったほうがいいのかもしれない。
しまいこんでしまうこと。これはよいことなのか悪いことなのかそれはわからない。わたしの脳はどんどん先を未知のものを求めているようにも思える。しまいこんだ過去の記憶はしまいこまれたままだ。
人によっては過去の出来事を時々思い出しては悔しい思いや怒りが蘇ってきたりということがあるらしいけれど、そういうことはほとんどない。
過去の出来事を思い出すことが少ないというのは、ある意味「楽」かもしれない。過去の終わってしまった出来事に今なお振り回されることがないという意味で。
失恋や受験の失敗、仕事や人間関係でのトラブル等、終わってしまってもなお引きずってしまうというのはまぁあることだと思う。心の整理がなかなかつかなかったり、引きずる長さに個人差はあって、それはそれで仕方ないと思う。
過去のことはほとんど思い出さないと書いたわたしだけれど、ふいにものすごく昔のことを思い出したりすることがある。
子どもの頃の記憶がふいに蘇ってきて、当時の画像が脳内でスライドショーすることがごく最近もあった。
子どもの頃住んでいた家は更地になってもうない。
いや「更地になってもうないらしい」と表現したほうがいいだろう。わたしは実は更地になっているのを見ていない。場所が遠方だというのと、住んでいた古くて大きな家が跡形もなくなくなっているのを見たくないというのがあるからだ。
子どもの頃住んでいた家は当時のままわたしの脳内フォルダに保存されている。
それでいいのだと思う。
「水域」を読んでいただければわかるのだけれど、自分が長年住みなじんだ家や場所が失われるというのは、正直言ってつらいものだ。楽しい思い出があればあるほど、家や場所を失うのはつらい。
古くて大きな家。納屋があって、離れもあって、子どもの頃は窓を開け放して畳の上で昼寝した。夏には蚊帳をつって、その中で寝た。廊下にはオルガン。足踏みミシン。納屋の中の様子を絵に書いて、その描いた絵がコンクールで入賞した。絵は市内の美術館の入賞作品展で展示されていると聞いて家族で見に行った。
もう、その納屋はない。――蚊帳もオルガンも足踏みミシンも、大きくて大好きだった家も。いっしょに住んでいた祖父母も亡くなり、本当にいろいろ変わったなぁとそう思う。
生まれ育った家、場所が残っているというのは幸せなことだと思う。しかしながら、残っていなかったら不幸なのか。そんなことはないと思う。
記憶があれば大丈夫。
わたしはそう思う。
「記憶が支えてくれる」というのはあるように思う。
楽しかった思い出とか優しくされた思い出とか、そういうものはずっとずっと残っていくものだと。
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