【雑文】同じ空の下で


空色が優しくなったかと思うと
突然雨が景色をモノトーンに曇らせて
空気が寂しげにまとわりつくそんな日が続いている。


雨上がり、夜の公園で虫が鳴く。
ひたすら鳴きつづけるその規則的な音にしばし聞き惚れる。
姿は見えないけれど、どこかにいる虫。
ちいさすぎて見つけるには困難すぎるね。
音がするってことは確かに存在するんだけどね。
見つけたとしても、どうしようもないよね。
眺めるしかできない。つかまえたとしてカゴで飼うわけにもいかないしね。


カゴには入れられない。
そんなことをすれば死んでしまう。死を早めてしまう。
自由なままでいさせてあげよう。


セミもね、セミとりもキライなんだ。
やっと地上に出て来れたのに、つかまえてカゴにいれて、なんでそんなことするん?
死んでしまうよ。なんで一気に残り時間を縮めるん?
自由なままでいさせてあげようよ。


赤ん坊が二十歳になるまで生きられないだろうなぁと言った義父。
人生の残り時間があと二十年あるとは思えないと。
かなしくなった。
ずっとずっと生きていてほしいとそう思う。


湿り気を帯びた夜の空気を思いきり吸いこんだ。
重い肩。
また猫背になっている。
ああ、胸をはって、背すじのばさなきゃね。
たったひとつの自分の体だから大事にしなきゃね。



肉体が滅びるまでの存在。
すべては有限の存在。
ある一定時間だけ存在を許されたもの。
存在を許された時間におなじく存在を許されたもの同士が出会う。
それは偶然ではなく、いや、たとえ偶然であったとしても何か意味があるとそう信じたい。
たいした意味はないのかもしれないけれど。
存在を許された時間のその中で、一体どれだけの人と出会えるだろう。
出会い、どれだけ触れ合えるだろう。話ができるだろう。


正月に帰省したときに会おうと言っていた先輩は、
帰省する前日、一人暮らしのアパート、こたつの中で亡くなっていた。
よくわからない死だった。
突然とぎれてしまうこともあるのだと思った。
存在を許された時間は有限で、そしていつ終わるかわからないものだと思った。
時は流れ、時が止まった人のことを思い出すとき、私は浮遊する。現在というこの世界から。


今日もまた世界中で命がいくつも消えていき、
明日もまた世界中で命がいくつも消えていく。
いつかは自分の命も。


願わくば明日も笑顔でいられますように。


たとえ見えなくても
私は存在しているよ


ネットの向こう
同じ空の下で
こうしてキーをうっているよ


KOTOKOさんの曲に同名のものがありますが関係ありません。