僕と彼女とYの野郎は、よくつるんでいた。
三人とも元々は同じ中学だったのだが、
同じ高校に進学して仲がよくなった。
Yの野郎のうちが飲食店というか喫茶店をしていたので、
よく入り浸っていた。
店が忙しいとき、彼女が即席ウエートレスをしていたりいた。
エプロン姿の彼女は、はっきり言ってかわいかった。
僕は、彼女が好きだった。
完全な片思いだった。
彼女は、Yが好きらしい。それは表情や仕草でわかった。
Yは、僕より頭がいい。しかも身長は182か183はあるだろう。
顔も僕よりいい。
サバサバした性格で、女子に人気がある。
高校に入って、告られたことも一度や二度ではないハズだ。
そんなYの野郎に嫉妬したりもしたが、
そんなとこを彼女に見せるのもかっこ悪いだろ?
だから、平静を装ってた。
Yは、彼女のYへの想いに気づいているのか、もしくは気づかないふりをしているのか、
今までどおり変わらない野郎でいた。
これは、アッパレだと思う。
普通、好意を持たれてるって知ったら、意識するだろ?
ぎくしゃくするだろ?
それが奴にはない。
僕が彼女を好きだということは、奴は知っている。
知っているが、見事なほどの不干渉でいてくれる。
おせっかいもしないが、邪魔もしない。
俺は俺の道を行く。お前はお前の道を行け。
そんなスタンスのYの野郎が、僕はひそかに好きだった。
やがて大学進学。
Yの野郎は、独自の要領よさで、東京の大学に受かってしまった。
「実力で受かりそうなところを受けただけ」
と言うところがなんとも奴らしい。
彼女は第一志望に落ちて、地元の大学に進学した。
そして、僕も同じ地元の大学に進学した。
そう、僕と彼女は、同じ大学に通うことになった。
学部は違ったけれど。
彼女は、やはりYが好きらしい。
東京の大学に進学するYと離れ離れになるのは、つらそうだ。
確かにそう簡単には会えなくなる。
今までどおり明るく振舞う彼女。
大学で僕と偶然会えば(実は偶然を装っているのだけれど)
学食で飯をいっしょに食ったり。
彼女が僕に小声で言った。
「誰にも言わないでね。
やっぱり、東京の大学に行きたいから、勉強しているの。仮面浪人ってやつかな」
と聞かされた時は、さすがにびびった。
そこまでして、東京に行きたいのか。奴のところに行きたいのか。
僕は、むっとして言った。
「気の済むようにすれば」
結局、彼女は東京の大学には行かなかった。
夏休み。帰省したYの野郎は、さらっと言った。
大学卒業したら、戻ってくるから。
そんなYの野郎は、結局戻ってこなかった。
大学2年の冬、クリスマスの日。
奴は死んでしまった。一人暮らしをしていたアパートで。わけのわからない死に方だった。
悲嘆に暮れる彼女。
それはもう痛々しくてみていられないほどだった。
彼女も死を選びそうな、そんな危うい状態が続いた。
Yの野郎が好きでもいい。Yの野郎を想っていてもいい。
彼女に生きていてほしい。それは僕の願いだった。
クリスマスは、もう死んだ。
クリスマスだからって浮かれるような気にはならない。
クリスマスに笑うことなんかできない。
僕にとっても彼女にとっても、もはやクリスマスは忌み日でしかない。
Yの野郎は、死んだ。
クリスマスは、奴の命日だ。
クリスマスが毎年めぐってくるたび、思い出す。
おい、Y。もし、天国でこの文章を読んでいたら、
どんな形でもいいから返事をくれ。
どうして死んだのか、その理由がわからないままなんだ。
勝手に死ぬな、バカヤロウ。
彼女を泣かすな、バカヤロウ。
クリスマスは、もう死んだ。
クリスマスは、もう死んだ。
クリスマスは、もう死んだ。
クリスマスは死んでも、
奴は死んでも、
僕は生きている。
彼女も生きている。
泣きながら生きている。
おい、Y。もし、天国でこの文章を読んでいたら、
どんな形でもいいから返事をくれ。
年に一度のクリスマスだ。
それくらいの奇跡起こしやがれ。
会いたいぜ。ちくしょー。この野郎!
※この話(クリスマスに笑うことなんかできない)は、一部実話です。