20分で書いた小説「好きなままでずっといられますように。」

気分転換に20分文章書き耐久テスト。』(G.A.W.)を読んで、面白そうだなぁと思ったので、20分でどれだけ小説が書けるかやってみました。
思いついてすぐ書きはじめたので、設定とか細かいことは考えてません。続きも書こうと思えば書けるかな、という感じに仕上がりました。


タイトル「好きなままでずっといられますように。」

 彼の部屋から見える景色を私は密かに気に入っていた。桜の木が窓のすぐ外に生茂っていて、風が吹くと葉っぱたちが声を出して笑う。光のシャワーに影が揺れて、昔少しだけ住んでいた祖母の古い家を思い出す。いつも凛としていた祖母とくすんだ畳。懐かしい記憶だけが残された。今、その古い家はない。



 私は折りたたみ式のテーブルのうえに熟れたトマトを置いて、弾ける水滴を人差し指でつっとなぞった。やわらかな世界。これはこれで存在していていいのだ。



 ベランダの物干し竿。彼のTシャツが夢見るように揺れている。くったりした木綿の白は見慣れている。が、ハンガーにかかったそれは今日は大きく見え、今にもどこかへ飛んでいってしまいそうだった。風は穏かなほうがいい。そう、毎日穏やかで、必要以上に揺れたくない。


空の青。青が目に痛い。宇宙まで突き抜けた青空は私のちっぽけさを喉元に突きつける。有限の、自分の有限性を思い知らされる。



「お茶飲む?」
 風とともに声が降ってきた。私は窓のすぐ下で仰向けになっていた。今日は赤い花弁が描きちらされたスカートをはいていたのだけれど、ロングだし、寝転がる格好はいつも彼に見せている姿だしと思って、特に気にしなかった。が、ふと思った。スカートの中、体温でぬくもった空間を彼は気づいているだろうか。少し汗ばんだ太ももが纏う空気に気づかれたくないと思う自分がいた。起き上がりスカートをばたばたさせたとしたら、あまりにも子どもっぽいだろうか。



「飲む飲む」
 私はスカートのすそをなおしつつ起き上がり、彼を見た。彼は今日は仕事は休みだ。
「麦茶を大量に沸かすようにしたよ。これでいつでも水分補給できる。干からびることもないね」
 彼は笑いながら、おそらくはまた熱くて舌を火傷するにちがいないくらいの麦茶をことりテーブルに置いた。黒の湯のみはごつごつしていた。男っぽいなと思う。



 私はカフェで働いていた。調理場に立つこともあるし、接客もする。忙しすぎないそのカフェはわたしにとって居心地がよく、カフェのオーナーの穏かな人柄もずっとそこで働きたいと思う理由のひとつだった。
「お金はね、もう十分持ってる。だからもういいの。あとは、くつろげる贅沢な時間を過ごしたいのです」
 独身のオーナーである一子さんは、若い頃は証券アナリストとしてバリバリ働いていたらしい。
「夜九時より前にうちに帰ったことなんかなかったわ。もちろんの飲みにいったりすることも」
 背筋をいつものばし身綺麗にしている一子さんが私は大好きだった。



「くたくたになって帰ってくるでしょ。もちろんおなかすいて。でもわたしはうちで食べたくて、いえ、わたしの食べたいものがお店にあるのなら、もちろんそこに出向いてお金を払って食べるわ。でもそういう食べたいものがないのよ。居酒屋じゃダメなの。女一人で居酒屋に入る勇気はなくて、でもファミレスもちがう。食べたいのは洋風の、少ししゃれたそれでいて胃を落ち着かせる料理。量はたくさんいらない。ただ野菜が食べたくて、美味しいスープが飲みたくて、わかるかしら。夜遅くそんなお店ってなかったのよ。わたしの周りには」



 私はうんうんと頷く。何度も聞かされた話だけれど、何度聞いても共感して涙が出そうになる。おいしいものは人をしあわせにする。心からそう思う。おいしいものを彼にも食べさせたい。好きな人によろこんでもらいたい。ただそれだけだ。それだけなのになんてせつなくて苦しいことなんだろう。今こうして好きな人がいるということが私はしあわせすぎて、そして、こわかった。



いつか嫌いになるかもしれない。彼が私を嫌いになるかもしれないし、もしかしたら、私が彼のことを嫌いになるかもしれない。いいや、そんなことはない。ずっとずっと好きでいる。
私は、どこまでもいつまでも好きでいられるよう毎晩神様にお祈りしている。


好きなままでずっといられますように。

と、ここまででだいたい20分でした。けっこう書けるものですね。
普段はラノベっぽいものも書いているのですが、今回はちょっと恋愛小説風で。「彼」についての描写もしたかったのですが、時間切れでした。
ええ、20分、集中して一気に書いて楽しかったです。